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巷で話題の「発酵」。なんとなく体に良さそうな印象はあるものの、そもそも「発酵とは」と聞かれて答えられますか?豊橋でおよそ140年、発酵食品の「濱納豆」を製造・販売している國松本店をお招きし、「発酵とは」という話から、この地域の発酵文化についてもお話を伺います。

日時:1216日(土)14001500

場所:中央ステップ

ゲスト:國松千純(國松本店)ほか

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レポート

最近良く見聞きする「腸活」や「発酵食品」というワード。知っているようで詳しくは知らないという方も多いであろうこの「発酵」をキーワードに、國松本店様(以降、「國松さん」)をお招きしてトークイベントを開催しました。

國松さんは豊橋でおよそ140年、発酵食品である濱納豆を製造・販売しているお店です。

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トークの最初は、せっかく國松さんにお越しいただいたので濱納豆の知識について。

大まかな流れとしては、大豆を蒸して、そこに麹菌をつけて木の箱(ろじ)に並べ発酵させ、塩水と一緒に樽にいれて46か月ほど熟成させ、天気の良い日に一日天日干しにするというもの。

写真つきでご説明いただきつつ、“ろじ”は実物も持ってきていただき、お話してくれました。

木の箱ならなんでもいいというわけではないというお話も印象的でしたね。

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濱納豆は、一般的に言われるネバネバした納豆とは全く異なる物です。

糸引き納豆は納豆菌により短期発酵させたもの。そもそも発酵をおこなう菌から違うんですね。

このあたりの違いの説明や、濱納豆の由来についてもご説明いただきました。(濱納豆は約1,300年前に中国から伝わったとされ、中国の調味料“豆鼓”によく似ている。伝わった当初は、お寺などの納所でつくられていたため納豆と呼ばれたのが語源と言われているそう)

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そこからは、「では濱納豆の発酵の元となっている“麹菌”とは?」という話にもつながりました。

麹菌は濱納豆だけでなく、醤油やお味噌、日本酒など、日本の食文化には欠かせない存在で、日本にしか存在しないことから国菌とも呼ばれています。

ここからついに、「発酵とは?」という今回の本題に入りました。

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発酵とは何かを説明する前に、まずは発酵食品をイメージしてもらおうということで、スタッフ増田と國松様でぱっと思いついた物を挙げていきます。

味噌、醤油、酢、みりん、塩麹、ヨーグルト、日本酒、ワイン、ピクルス、生ハム…意外なところでいうとパンやチョコレートなども。私たちの身の回りに発酵食品や調味料は欠かせないものだとわかります。

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ここから少し踏み込んで、「なぜ発酵食品が生まれたのか?」という話を尋ねると、味が美味しくなるといった点はもちろん、「腐りにくくなる」というお返事がありました。

今のようにコンビニやスーパーが身近にあるわけでもなく、家に冷蔵庫も無かったような時代をイメージしてみてください。

厳しい夏の暑さや冬の寒さを乗り切るのに、発酵というのは生きる知恵として根付いたという側面があるようです。

科学的には微生物により何らかの変化が生まれているということなので、腐敗と発酵は紙一重というお話もありました。人間にとって、有益な作用を発酵とよび、有害な作用を腐敗というんですね。

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そのあとは「発酵食品には地域性があるか」という話について。

私は今回のテーマでトークをやるとなってから色々な本などを読み、「発酵食品をみれば地域性が見える!きっと豊橋にも特徴がある!」と思っていて、個人的にかなり重きを置いたテーマでした。

なので私から、私がそう思った理由から皆さんに少しお話をさせていただきました。

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麹菌は国菌です、ということについては事前に触れました。

この麹菌というのは正式にはニホンコウジカビと言います。ではお隣中国(大陸)ではというと、クモノスカビというカビの種類やケカビと呼ばれるカビの仲間による発酵が基本だそうです。

中国の紹興酒はクモノスカビで発酵させるお酒で、できた当初は酸味が強く、長期熟成させることで味を安定させます。ニホンコウジカビで醸すお酒(日本酒)とは違いますね。

もう少し近場で考えると例えば八丁味噌。

八丁味噌は全国によくある麦麹や米麹でつくる麦味噌・米味噌とは異なり、大豆をそのまま麹菌で発酵させ豆麹にする豆味噌という特殊なものです。

東海地方に見られるほぼ大豆100%でつくるたまり醤油もここからきていると思われますが、なぜこの文化が盛んになったのかを調べました。

すると「矢作川の上質な伏流水が味噌作りに最適だった」「矢作川と旧東海道が水陸交通の要所で、味噌の原料となる大豆や塩の調達が容易かつ出荷しやすかった」「一説によると徳川家康が豆味噌の優位性に気づき、製法をこの地域のみに制限した」という話も。やはり発酵食品にはその地域で発展する理由がありそうです。

その他にも、山地が多く平野がすくない山梨では米が大量に作れず、裏作で作っていた麦と合わせて作った甲州味噌の話なども例にだしました。そこから「では豊橋は?」というのが話のメインテーマです。國松さんをはじめ、豊橋には発酵に関わる企業が多くあり、そこには何か理由があるのでは?と仮定し、國松さんに尋ねました。

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すると國松さんからは、「昔はもっと盛んだった」というお答えが!

八丁味噌のように、豊川の伏流水が良かったということや、それこそ水陸交通の要所であったということもその理由のようです。

豊橋にも独自の味噌の文化があったというお話もありました。

ただ、軍都であった豊橋は空襲なども受け、戦争によって多くの企業がその文化を失ったという話がありました。私は今の時点でこの地域は発酵文化が盛んだと思い質問しましたが、実際はもっと盛んだった歴史があるんですね。

こういったお話は、中々普段聴くことができないお話です。

本を読んでも、この地域における発酵文化という観点で専門的に書かれた書物は中々見つからず、今回のように実際にその歴史を知っている人から伺える話は非常に貴重だと思いました。

そしてこのような知識を、企画を通じて多くの方に知ってもらい、遺していくということが、まちなか図書館の大事なミッションの一つだと思います。

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最後はタイトルにある通り「美と健康」に関することについて。

腸内環境を整える働きがあることや、抗酸化作用によって体の酸化を防ぐ働きがあることなど、幅広く教えていただきました。

私含め、なんとなく身体に良さそうだなあと思っていた方も多かったかもしれませんが、具体的な効果をイメージすることができたのではないでしょうか。

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最後には図書館からおすすめの本を紹介。イベント終了後には実際に手に取り、借りていただく方も多くありがたかったです。少しでも新しいことに興味を持っていただくきっかけになっていれば良いなと思いました。

今回は「発酵」というキーワードを軸に、発酵そのものの話はもちろん、この地域の歴史などについても触れることができるトークイベントとなりました。

様々な情報を取り扱う図書館の中でも、人と人の交流も重要なポイントだと認識している当館だからこそできるイベントを、今後も継続的に行っていきたいと思います。